イタリア旅行中、「なんだか無視されている」「冷たい」と感じたことがある人は多いと思います。ですがそれは、失礼にされたわけでも、嫌われたわけでもありません。実体験をもとに、イタリアの接客文化で日本人が戸惑いやすいポイントをまとめてみました。
イタリア接客事情
はじめに|「無視された?」と感じるのはあなただけじゃない
日本の接客文化は、日本を訪れた外国人旅行者から驚かれたり、「こんなに丁寧なのは初めて」と褒められたりすることが多い文化です。気配りや細やかさは、日本ならではの特徴だと感じます。
ただ、この記事で扱うのは、イタリアで「客の立場」になったときの話です。日本で当たり前とされている接客の水準を、そのままイタリアで相手に求めてしまうと、思わぬすれ違いが生まれることがあります。
時に「無視された?」と感じることもあるかもしれません。
これは、日本の接客が優れていないという意味ではありません。むしろ逆で、よくできた文化だからこそ、使う場面を選ぶ必要があるという話です。
イタリアの接客が日本と決定的に違うポイント
イタリアの接客を理解するうえで、まず知っておきたいのは、「仕事は、自分の役割をきちんと果たすこと」という考え方です。
日本では、おもてなしの精神から、自分の担当ではないことにも気づいて対応する場面がよくあります。一方イタリアでは、自分の役割として求められていることを、しっかり行うという姿勢が基本です。
そのため、「そこまでしてくれないの?」、「少し冷たいかも?」と感じる場面があったとしても、それは怠慢や悪意ではありません。文化として、そこまでを仕事の範囲としていないだけなのです。
もちろん、とても親切で、気遣いのある対応をしてもらえることもあります。ただしそれは、「イタリアの接客文化そのもの」というより、その人個人の性格や人柄によるものと考えたほうが近いでしょう。
もしそんな対応を受けたら、「今日は運が良かったな」くらいに受け取るのがちょうどいい距離感です。
最初から日本と同じレベルの気配りを期待してしまうと、どうしてもズレが生まれてしまいます。イタリアでは、求められていないことを無理にしないことも、ごく自然な働き方なのです。
イタリアの接客について話すと、「チップはないの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
結論から言うと、イタリアはチップで接客の質が左右される文化ではありません。多くの店では、席料(coperto)やサービス料(servizio)があらかじめ料金に含まれていますが、これはチップの代わりというより、店の仕組みとして設定されているものです。
そのため、チップを払ったから特別に丁寧になる、払わないから冷たくなる、といった関係はほとんどありません。
親切な対応をしてもらえたときに、感謝の気持ちとして少し渡すことはありますが、それは義務ではなく、あくまで個人同士のやりとりに近いものです。
イタリアの接客で感じる違和感は、チップの有無ではなく、仕事の役割や、接客が始まる前提の違いから生まれるもの。そこを知っておくと、受け取り方はずいぶん変わってきます。
無言で入店すると何が起きるのか
イタリアで一番避けたほうがいい行動のひとつが、何も言わずに店に入ることです。
イタリアでは、店に入るという行為そのものが、すでに人と人との関わりの始まりと考えられています。そのため、挨拶なしで入店すると、相手からすると少し戸惑わせてしまうことがあります。
日本人旅行者がやりがちなのが、何も言わずに、静かに店に入ること。日本では自然な行動ですが、イタリアでは
「どう接すればいいのだろう?」と相手を迷わせてしまうことがあります。
これは、カフェやレストランだけではありません。スーパーでも、入口に係の人がいれば挨拶をするのが普通ですし、
レジでも一言声をかけます。パンや惣菜のカウンターで注文するときも、まず挨拶から始まります。
何も言わずに入る。挨拶をせず、要件だけを伝える。
この一連の行動は、イタリアでは少し不自然に映ります。冷たいというより、「会話が始まっていない状態」と受け取られることが多いのです。
イタリアでは、挨拶は礼儀である以前に、会話を始めるための合図です。「Buongiorno」この一言があるだけで、空気は驚くほど変わります。
カフェ・ジェラテリアでよくある誤解
イタリアのカフェやジェラテリアは、雰囲気はとても気軽ですが、流れを知らないと、なかなか接客が始まらない場所でもあります。
よくある誤解のひとつが、「待っていれば、そのうち声をかけてもらえる」という感覚です。日本では自然な待ち方ですが、イタリアではまだ意思表示がない状態として受け取られることが多くあります。
メニューを眺める。ショーケースを見る。少し迷う。
この時間、店員から見ると、「まだ決めていない人」、「今は声をかけるタイミングではない人」という認識のままです。
イタリアのカフェでは、接客のタイミングは、客が作るのが前提です。「Buongiorno」と声をかける。それだけで、会話が始まります。
もうひとつ、多くの日本人が戸惑うのが、お会計の順番です。カウンターで注文しようとしたら、「先にレジで」と言われる。レジに行ったら、今度は注文カウンターを指される。これは、イタリアのカフェでは店ごとに流れが違うためです。
よくあるのは、先にレジで支払いを済ませ、レシートを受け取り、それを注文カウンターで見せる、という流れ。場合によっては、レシートにチェックを入れられることもあります。
ここで大切なのは、「間違えた」と思わなくていい、ということです。この仕組みは、知らなければ分からなくて当然のもの。店員側も、戸惑っていること自体を問題にはしていません。
イタリアのカフェやジェラテリアでは、レシートは単なる紙切れではなく、「支払いを済ませ、商品を受け取ってよい客である」ことを示す合図です。そのため、注文や受け取りの場面で、レシートを求められることがあります。
カフェやジェラテリアで困らないコツは、とてもシンプルです。
- まず挨拶をする
- 次に、流れを一度確認する
それだけで、場の空気は驚くほどスムーズになります。
レストランで店員が来ない理由
イタリアのレストランで、「なかなか店員が来ない」、「注文をなかなか取りに来てくれない」と感じる場面は、決して珍しくありません。
日本の感覚だと、空いたグラスに気づいてくれたり、頃合いを見て声をかけてくれたりするのが当たり前です。
ですが、イタリアのレストランでは、食事は急いで済ませるものではなく、時間をかけて楽しむものという前提があります。
そのため、店員が頻繁にテーブルに来ることは、必ずしも親切という感覚ではありません。会話や雰囲気を大切にしている最中に、何度も割り込むことのほうが、失礼にあたる場合もあります。
イタリアでは、周囲の客も含めた食事の流れを大切にするため、急かす行為は好まれないことがあります。
その一方で、イタリアのレストランでは、食事の途中に「美味しい?」、注文したメニューについて「〇〇はどう?」と声をかけられることがあります。さらに、食事が終わりに近づくと、デザートやカフェを勧められることも、かなり自然な流れです。
一見すると、「来ないときは来ないのに、急に話しかけてくる」ように感じるかもしれません。ですがこれは、
気を利かせて先回りしているのではなく、その場の空気が整ったタイミングで関わっているという感覚に近いものです。
イタリアの接客では、早さや効率よりも、食事の流れや雰囲気を一緒につくることが重視されます。途中の声かけや、
食後の一言も、その流れの一部として自然に行われているのです。
店員が来ないからといって、接客態度が悪いわけでも、忘れられているわけでもありません。多くの場合、「まだ急ぐ時間ではない」、「この空気を楽しんでいる」と判断されているだけです。
イタリアのレストランでは、待つ時間も含めて、食事の体験として考えられています。この前提を知っているかどうかで、同じ時間でも、感じ方は大きく変わってきます。
スーパーのレジは流れが大切
イタリアのスーパーでは、レジに並べば自動的に接客が始まらない、というわけではありません。むしろ、流れそのものはとてもはっきり決まっています。
まず、カゴの中の商品を自分でベルトコンベアに置きます。カゴごと店員に渡すことはありません。順番が来たら、店員が商品をスキャンし、会計へ進みます。
このとき、店員から挨拶をされることが多く、こちらも自然に挨拶を返します。これは、「接客を始める合図」といより、最初から行われる普通のやり取りです。
スキャンが進むと、ほぼ必ず「袋は必要か?」と聞かれます。その場で必要なら「Sì, grazie」、不必要なら「No, no grazie」と答えながら、スキャンが終わった商品から自分で袋詰めを始めます。
会計が終わり、袋詰めも済んでいれば、そのまま挨拶をしてレジを離れます。まだ袋詰めが終わっていなければ、手早く済ませてから挨拶をして終わりです。
この一連の流れの中で、無言でやり取りすること自体は不可能ではありません。ですが、挨拶をしない人は、かなり珍しく、少し奇妙に映ります。
イタリアでは、挨拶は特別な合図ではなく、最初からあるものです。だからこそ、何も言わずにやり取りを終えると、強く印象に残ってしまいます。
パンや惣菜のカウンターでも同じで、要件を伝える前に、まず挨拶をするのが自然な流れです。日本の「すみません」が、そのまま挨拶に置き換わったような感覚に近いかもしれません。
アパレル店はランクで空気が変わる
イタリアのアパレル店、特にブティックでは、「ふらっと入る」という感覚には、少し注意が必要です。
イタリアでは、ブランドの格や価格帯は、店に入る前からある程度共有されている前提があります。そのため、「どんな感じのブランドかな?」と下見をするためだけに入店する、という行動はあまり多くありません。
実際、イタリアのブティックに入ると、店内に客がほとんどいないと感じることも多いはずです。これは人気がないからではなく、目的を持った人が、必要なときに来る場所だからです。
本当に好きなブランドで、興味を持って商品を選び、気に入ったものがあれば購入する。それが、イタリアでは自然な買い物の流れです。
一方で、最初から「ちょっと見てみようかな」という気持ちで入ると、場の空気から少し浮いてしまうことがあります。
また、イタリアでは、ファストファッションを含め、多くのアパレル店の入口に盗難防止ゲートや警備担当者が立っています。店に入るときは、まず警備担当者に挨拶をする。店員と目が合えば、改めて挨拶をする。
これは特別な対応ではなく、その場に入るための最低限のやり取りです。
店員はプロなので、挨拶をしたからといって、すぐに接客を始めるわけではありません。ですがその時点で、
「客としてどう振る舞う人か」は自然と見られています。ここが、日本との大きな違いかもしれません。
アパレル店では、服装や身につけているものが、その店の価格帯や雰囲気と大きく異なる場合、入店を断られることもあり得ます。
たとえば、夏場のタンクトップに短パン、サンダルといった格好。清潔感がなく見えてしまう場合は、警戒されやすくなります。簡単なイメージで言えば、たとえお金を持っていたとしても、バックパッカーのような見た目は、ブティックでは不向きと受け取られやすいです。
一方で、同じようにラフな服装であっても、清潔感があり、全体のスタイルが整っていて、身につけているものがハイブランドであれば、「この店の客だ」と判断されやすくなります。
これは、
身分や知名度で判断しているという話ではありません。
その場の空気や価格帯に合った客かどうかを、
自然に見極めているだけです。
ただし、日本人旅行者の場合、過度に心配する必要はあまりありません。日本人は、ラフな服装であっても、服や靴がきれいで、清潔感があることが多く、旅行の際に新しい服や靴を用意する人も少なくありません。そのため、最低限の清潔感があれば、多くの場合は問題なく入店できます。
イタリアでは、「お客様は神様」という考え方はありません。客と店員は、あくまで対等な立場です。有名人や、多くのお金を使う人が特別扱いされることはありますが、それは神様だからではなく、長く関係を続ける“お得意様”だからです。
アパレル店では、商品そのものだけでなく、その場の空気や関係性も含めて、買い物が成り立っていると考えられています。
無視されないために意識したい3つのこと
① 無言はNG。まず挨拶する
イタリアでは、無言は礼儀ではなく「まだ関わりが始まっていない状態」として受け取られます。店に入るとき、カウンターに立つとき、レジで向き合ったとき。まずは挨拶をする。それだけで、相手との距離は自然に縮まります。
② 待つだけでは伝わらない。意思表示は必要!
日本では、待つことが気遣いになる場面も多いですが、イタリアでは意思表示がない=まだ準備中と受け取られることがあります。カフェでも、レストランでも、流れが止まっていると感じたら、軽く存在を示す。遠慮しすぎないことが、結果的にスムーズなやり取りにつながります。
③ その場の空気に入る
イタリアでは、接客はサービスというより、その場の空気を一緒につくる行為に近いものです。服装、振る舞い、話し方。すべてが「この場所に合っているかどうか」を見られています。
無理に合わせる必要はありませんが、その場の前提を知っておくことで、違和感はぐっと減ります。
完璧なイタリア語も、特別なコミュニケーション能力も必要ありません。
- 挨拶をする
- 自分の意思を少しだけ示す
- 空気を尊重する
それだけで、「無視された?」と感じる場面は、ほとんど避けられるはずです。
困ったときに使える最低限のフレーズ
イタリアにも、英語が話せる店員はもちろんいます。観光地であればなおさらです。ただ、最初から英語で話しかけるかどうかで、相手の受け取り方が変わることがあります。
イタリア語で一言挨拶をしてから、相手が英語での対応が適切だと判断すれば、そのまま英語で説明してくれることも多いです。英語に抵抗がない店員であれば、むしろこちらの状況をくみ取って、丁寧に対応してくれます。
一方で、最初から英語でズカズカと話しかけてしまうと、少し警戒されることがあります。これは、語学力の問題というより、距離感の問題に近いかもしれません。
この感覚は、日本でも似ています。たとえば、外国人旅行者に「こんにちは」「すみません」と声をかけられてから、英語で質問されたら、聞く準備ができた状態で対応できます。身振り手振りがあれば単語だけでも、お互い伝わりやすくなりますね。
ですが、いきなり英語で話しかけられると、英語が得意でない人ほど、「何を言っているのかわからない」と身構えてしまいます。イタリアでも、同じことです。
そのため、完璧なイタリア語は必要ありませんが、最低限の一言があると、とても便利です。
イタリア人は、ジェスチャーを多く使う国民です。言葉のすべてが分からなくても、「何を伝えようとしているか」は比較的読み取りやすくなります。まずは、相手の言葉で挨拶をする。それだけで、会話の入口はずっと柔らかくなります。
困ったときに使える最低限のフレーズ
Buongiorno(ブオンジョルノ)
こんにちは/おはようございます
※ 入店時・声をかける最初の一言に
Grazie(グラッツィエ)
ありがとう
※ 何度言ってもOK。言いすぎはない
Per favore(ペル ファヴォーレ)
お願いします
※ 丁寧さを足したいときに
Scusi(スクージ)
すみません
※ 店員に声をかけるとき/軽く注意を引くときに
これだけでも、「相手の文化と言葉を尊重している」という意思は、十分に伝わります。
※ 発音は多少違っても問題ありません。
挨拶しようとしていること自体が、きちんと伝わります。
最後に|知っていれば避けられる文化のズレ
イタリアの店で「無視された?」「冷たいのかも?」と感じた経験は、決してあなただけのものではありません。それは、マナーが悪かったからでも、嫌われたからでもなく、前提が少し違っていただけのことがほとんどです。
イタリアでは、挨拶が会話の始まりになり、意思表示が流れを動かし、空気感が接客を形づくります。日本で身につけた感覚が、そのまま通じない場面もありますが、それは日本の接客文化が劣っているからではありません。むしろ、世界中の旅行者が驚くほど、日本の接客は丁寧で細やかな文化です。
ただ、旅先では、その感覚を少しだけ横に置いて、その土地の流れに身を委ねてみる。挨拶をして、空気を感じて、必要なときに、ほんの少し意思を示す。それだけで、イタリアの接客は、ずっと自然で、心地よいものになります。
文化のズレは、知らなければ戸惑いになりますが、知っていれば、避けられるものです。この先、イタリアの街や店で、少しでもリラックスして過ごせるきっかけになれば、それが何よりです。

